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歌舞伎彩歌

「どこまでも逃げて!」の親心と本当の赦し

『双蝶々曲輪日記〜引窓』


もし、あなたの大事な人が人を殺してしまい、その人から「自首します。その前に、一目会いたかった」と言われたら、あなたはその人にどんな言葉をかけますか?
「よく本当のことを話してくれた。では私が付き添っていきましょう。悪いことをしたのだから、潔く罪をつぐないましょう」
それが一番正しい道ですね。でもそうとわかっていても、身内はなかなかその「正しい」決断ができないもの。ましてわが子であれば、それもやむない理由とはいえ、長いこと離れて暮らしていたわが子であれば、なんとかしてあげたい、できればかくまってやりたい、逃がしてやりたい、と思ってしまうのも無理はありません。


引窓(ひきまど)」は以前(第36回)に紹介した「角力場(すもうば)」と同じく、「双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)」の一場面です。大関として名を馳せた人気の関取・濡髪長五郎(ぬれがみちょうごろう)(尾上松也)は、行きがかり上4人の男を殺し、指名手配され追われる身。生き別れた母親・お幸に一目でいいから会っておきたい、とお幸の再婚先を訪ね、八幡の里に立ち寄ります。


けれども運命は皮肉。お幸の義理の息子・南与兵衛(なんよへえ)は、すでに「濡髪長五郎を捕まえろ」という夜警の役目を命じられていました。長五郎捕縛の役目をきっかけに、父・南方十次兵衛(みなかたじゅうじべえ)の名を継ぐことを許され意気揚々と帰ってくる与兵衛。お幸は仲良く暮らしてきた義理の息子への情愛と、実の息子を逃がしたい気持ちとの間で心を引き裂かれます。


「引窓」とは、家の中で煮炊きをするための竈の煙を外に排出する、いわば換気扇のような役目の天窓のこと。紐を引っ張ることで開け閉めをします。その窓から見える空の様子から、「もう夜になったのか」、つまり、与兵衛が夜警を勤める時間か否かを見定めるのがこの物語の鍵となります。もう一つの鍵が「放生会(ほうじょうえ)」。供養のために、捕らえた生き物を池や野に放してやる法会で、それが罪人の長五郎を逃がしたいという気持ちと掛けて描かれます。


最近、スポーツマンシップにもとる反則行為が大きな話題になっています。反則を犯した青年の父親は、彼とともに被害者に謝罪に行きました。加害者の追い詰められた状況や深く反省する様子を見て、被害者サイドは彼を支援しようとしています。人の心の中に「赦し」が生まれるのはどんなときか。この舞台もまた、そんなことを考えさせられます。