
12月は、岩間鶴夫監督の『恐怖の対決』を放送。リングを去ったボクサーが暗黒街のボスと対決する、アクション作品です。
傷害罪を犯してボクシングを辞めた主人公を演じるのは、名画座ファンを虜にしてやまない大木実。松竹時代の大木さんといえば野村芳太郎監督の『張込み』(58)が思い出されますが、今作も愚直で正直な男を好演していて、その魅力がさく裂しています。当時の松竹の俳優を並べてみても、この役は大木さんをおいて他にはいない。
一方で、大好きな有沢正子と杉田弘子の共演が拝めるのも今作の見どころのひとつ。ともにあまりメジャーになれなかった女優なのだけど、それぞれに美しく、特に杉田さんはそのクラシカルな美貌が目を引きます。杉田さんというと、野村芳太郎監督の『月給13000円』(58)で、誰もが狙う美女でありながら、うだつの上がらない南原宏治演じる主人公に思いを寄せる女性を好演した印象が強く、戦前なら大スターだったかもしれないと思わせる美しさがその魅力。今作の杉田さんは特に美貌が際立っていて、完全にノックアウトされてしまった!
脇を固める布陣も注目。暗黒街のボスを演じる杉浦直樹が安定の悪人ぶりを見せる一方で、彼の第一子分を演じた高野真二がここまでの悪役をやるのは珍しく、バスハーモニカらしきものを演奏する二番目の子分役の小瀬朗もいい味を出しています。また、大木さんの弟を演じる清川新吾がこれほどフィーチャーされることもレアで、有沢さん演じる光枝に付きまとう男として登場する佐竹明夫も絶妙。小説家タイプの葛城といううさん臭い男がよく似合う。
さらにストーリー展開も秀逸で、冒頭に描かれる刑務所内のモブシーンが、物語後半の争いと対になる演出には感心しました。アクション映画としてなかなかの秀作でありながら、家族の問題をしっかりと絡ませてくるあたりが松竹映画らしく、子供たちが壁に落書きする場面も、大らかな時代だったと懐かしく思い出されます。
戦災孤児の少女がある男性に支えられ、バレリーナとして花開くまでの物語を描いた『踊子物語』は、小石栄一監督がメガホンを取った大映映画。三條美紀が初主演を飾り、上原謙が特別出演しています。三條さんの美しさや日本のバレエ黎明期を支えた貝谷八百子の登場もさることながら、個人的に注目したのは、活動写真の弁士やラジオの朗読で名調子を披露した人として有名な徳川夢声の出演。上原謙の歌声も必聴です。
11月は、若杉光夫監督の『十代の狼』をピックアップ。純情な娘たちを毒牙にかける愚連隊と、彼らを追う刑事たちの物語を描く、社会派ショートプログラムです。
長野から上京し、愚連隊の仲間入りをした主人公の青年・鉄夫を演じるのは青山恭二。現代では二枚目と呼べるのかわからないながら、人懐こい雰囲気が貴重な俳優。とは思いつつも、個人的にはやはり、大好きなバイプレーヤーの梅野泰靖に目を奪われました。日活作品では悪人やスネ者の役が多い梅野さんが、本作では鉄夫の兄貴分で絵に描いたような不良グループのリーダーを演じていて、それは彼らしさが失われてしまうのではないかと危惧したものの、杞憂に終わりました。やっぱり梅野さんは期待を裏切らない!
そして、不良グループが殺人事件に絡んでいるのではないかとにらんで捜査する警察サイドでは、ベテラン刑事の佐野浅夫と若いエリート刑事の垂水悟郎の対比を見事に描写。特に佐野さんは製作当時は35歳のはずなのだけど、刑事の勘に頼って足を使った捜査をするひと昔前の刑事を巧みに演じていて、芸達者ぶりに感服しました。
そんな佐野さんが演じる松下刑事に、飲み屋の店員で松下に恩のあるゆり(斉藤美和)が、事件に関する有力な情報をもたらすシーンが二度あるのだけど、その場面を見ていて思いだされたのは、若杉監督の傑作『七人の刑事終着駅の女』(65)。こちらの作品も、刑事が聞き込みをする人物を丁寧に描き、それらの小さなエピソードの数々をまとめてひとつの大きなドラマにする手法がとられていて、地方から上京してきた若者が犯罪に巻き込まれるストーリー展開も、本作と重なります。
一説によるとショートプログラムは、3本立てで上映する地方の映画館向けに作られ、東京では上映されなかったと聞いたことがあるのだけど、『七人の刑事~』はショートプログラムではないものの都内ではなぜか数日で公開が終わってしまい、幻の映画と呼ばれたとか。そんな上映秘話も含めて、『七人の刑事~』のエチュード的作品が本作なのではないかと思うと、さらに味わい深く感じられます。
横浜を舞台に、だるま船に住む水上生活者の少年・太郎とバレリーナ・久美の交流を描いた『銀の長靴』は、市村泰一監督作品。見どころは、久美を演じる由美かおるの華麗な舞踊シーン。蝶々・雄二をはじめとしたお茶の間の人気者たちも物語を彩り、黒澤明監督の『どですかでん』(70)の主演に抜擢された頭師佳孝の天才子役ぶりも光る!