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歌舞伎彩歌

ちょっと幕間 演技と食べ物〜蕎麦の食べ方いろいろ

雪暮夜入谷畦道〜直侍

テレビドラマではよく、食事の場面が出てきます。家庭の食卓に何が並ぶのか、楽しそうにおしゃべりしながら食べるのか、独りで済ますのか、はたまた喧嘩が始まるかなど、食事の場面は登場人物の性格や人間関係を浮き彫りにする重要な役割があることが多いのをご存知でしょうか。出てくる食べ物はお酒類以外は全部本物だとか。毎回食べてなくなってしまうので、準備も大変ですね。


歌舞伎でも旅先の茶店では一杯のお茶、遊郭ではお酒など、食べ物・飲み物はどんな芝居でも必ずと言っていいほど出てきます。でも「食べるまね」「マイム」で表すことが多く、必ずしも本当の食材が使われるとは限りません。「髪結新三(かみゆい・しんざ)」で魚屋が鰹を二枚におろす場面がありますが、もちろん本物の鰹ではなく、作り物。明らかに作り物とわかる鰹を本物のように扱うところが、演技の醍醐味です。


本当に食べ物が出る歌舞伎として有名なのが「雪暮夜入谷畦道(ゆきのゆうべ・いりやのあぜみち)」、通称「直侍(なおざむらい)」の蕎麦屋の場面。冬の夜、蕎麦屋に駆け込み一杯の蕎麦を食べて温まろうとする客の前に、本当に出来立ての蕎麦が出てきます。雪の中、素足に下駄で歩いてきた男たちが、店に入った途端、調理場に立ち込める湯気にほっと一息つく空気感には、江戸の庶民の生活が凝縮されたような風情があります。


ここで描かれるのが、3種類の蕎麦の食べ方。一つは長っ尻な客の、食べたり喋ったりの「野暮」な食べ方、一つは直侍こと主人公・片岡直次郎の、ズズッと軽い音を立てながら、熱いうちにすっと平らげる食べ方。割り箸の割り方や丼に入った虫の除け方など、細部まで作り込まれ、かつ自然体!粋です。そして最後が按摩の丈賀。大の蕎麦好きである丈賀は、目が見えないながらも器用に熱々の蕎麦をすすり、そしてお代わりも注文。昔の蕎麦の一杯は量が少なかったらしく、「二杯頼む」も蕎麦好きの定番だったそうです。


一口食するごと、寒さに縮みあがった筋肉が徐々に緩んでいくさまを観ていると、こちらの顔もほころぶというもの。「直侍」を観ると、幕間や芝居がはねた後に蕎麦屋に行きたくなるお客さんが多いのもわかります。けれどそれは「本物の蕎麦が出た」からでしょうか。もし、出された本物の蕎麦が伸びきっていても、役者は出来立ての美味い蕎麦を食べているように見せるでしょう。芝居を面白くするのは、ひとえに役者の演技力があってこそなのです。