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歌舞伎彩歌

まっすぐな激情ほとばしる負け組とエリートの対決

『元禄忠臣蔵〜御浜御殿綱豊卿』


東京・JR新橋駅から歩いて数分のところに、浜離宮恩賜公園があります。都会の中に広がる大きな日本式庭園は、誰でも入園可能。実はここ、甲府候綱豊卿が徳川六代将軍家宣となる前に住んでいたところで、浜離宮は綱豊卿の御殿のお庭でした。潮の満ち引きを利用した回遊式築山泉水庭や瀟洒な東屋、咲き誇る色とりどりの花など、今もその片鱗がうかがわれます。ここで年に一度、奥女中や近侍の者など総出で磯遊びに興じる、いわば慰労会の「お浜遊び」が、この物語の始まり。綱豊卿(尾上松也)は奥女中たちとともに酒や遊興に耽り、特にお喜世(中村米吉)という中臈にご執心。政治向きには一向に関心がない、と思わせる序盤です。


しかし二幕では一転、儒学者・新井白石(中村錦之助)を「先生」と呼んで迎え、江戸城で浅野内匠頭が吉良上野介に斬りつけた件について、幕府の対応に落ち度はなかったか神妙に尋ねます。そして、赤穂の浪人たちに本懐を遂げさせたいと呟く。愛するお喜世は赤穂に所縁のある女でした。 そこへお喜世の実の兄、冨森助右衛門(坂東巳之助)が召し出されます。お喜世に頼んで「奥女中の遊ぶ姿をちょっと見てみたい」とお浜遊びにかこつけて御殿に入れてもらったが、本当の狙いは、夜に催される能楽の集いに招かれている吉良上野介。顔を確認し、あわよくば一太刀浴びせようという助右衛門の魂胆を、綱豊は見抜いていました。


続く松也の綱豊卿と巳之助の助右衛門の問答は、畳み掛けるようなリズムの良さと、若くまっすぐなエネルギーに満ちて圧巻。本心を見抜かれまいとしながらも、言葉の端々に権力への不満が滲み出てしまう助右衛門、「どうして(私を信じて)本当のことを言わない?」と苛立つ綱豊。しかし助右衛門もまた、武士道をわきまえながら酒に逃げる綱豊の弱さを突いてくるのでした。


「元禄忠臣蔵」は、昭和初期に書かれた作品です。江戸時代に書かれた「仮名手本忠臣蔵」が、世を憚って人物の名や時代を室町時代に設定していますが、真山青果はすべて実名でこの戯曲を書きました。しかし考えようによっては、太平洋戦争に至る、庶民は何も言えないかった時代に、青果が江戸時代の、赤穂浪士の話に時代設定を移してその時代の世相を描いたとも言えます。正しいことを知りながら保身に走るエリート・綱豊卿の姿に、当時の観客は誰を思い浮かべて舞台を見ていたのでしょう。