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歌舞伎彩歌

『研辰の討たれ』笑い満載で描く仇討ち敵討ちの無益

研辰の討たれ 「研辰の討たれ」は、刀の研ぎ師から武士になった守山辰次(片岡愛之助)が家老・平井市郎右衛門を殺したことから、父の仇である辰次を討つため息子の九市郎(市川中車)・才次郎(中村壱太郎)兄弟が全国を捜しまわり、ついに辰次を取り押さえるまでを描いた物語。倶利伽羅峠(富山県)や善通寺(香川県)など、要所要所に観光地を織り込んだ一種のロードムービーとなっています。


また、舞台は江戸時代ですが、初演は大正14年(1925年)。作者の木村綿花は敵討ちを「当然」「正義」ととらえず、復讐の連鎖を是とする考えに近代的な視点でから一石を投じています。ですから“清廉潔白な武士が、私腹を肥やす悪家老などに殺され、その家族がついに悪者を追い詰めて成敗する!”というような、よくある展開ではありません。主人公の辰次は叱責されたことを根にもって、だまし討ちしたのです。上司にはおべっか使う、人の悪口は言う、いじましくて二枚舌でカッコ悪いことこの上ない、絵に描いたような卑怯者の辰次ですが、片岡愛之助がいたずらっ子のような愛らしさで演じると、それほど悪い男に思えなくなるのが不思議! 新しい職場で自分を大きく見せようと見栄を張るのも、どんなことがあっても生き延びようとするのも、私たちと同じだな、と思わせてくれます。


一方の平井兄弟は“町人あがり”の辰次に殺されたという父の汚辱をはらすべく、必死に辰次を追いかけます。でも彼らとて辛い。二人とも仇を討たねば故郷に戻れません。どこにいるかもわからない辰次を捜して3年、先の見えない放浪への疑問をつい口にする場面には、義理にからめとられた生活の虚しさがにじみ出ます。


大真面目に勝負を挑む兄弟と、悪知恵をはたらかせて逃げ回る辰次のコントラストがいよいよ可笑しみを増幅、「町人あがりが武士に一杯食わせる」構図のお芝居は、日ごろ支配階級に不満を持つ庶民にとっては格好のガス抜きになったことでしょう。その庶民の心情のうねりはまた、「敵討ち」の行方をも大きく左右します。アッと驚くラストシーンを、どうぞお見逃しなく!