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歌舞伎彩歌

『梅雨小袖昔八丈〜髪結新三』「帳場を捨てれば五分と五分!」江戸っ子の心意気に胸がすく

梅雨小袖昔八丈〜髪結新三 「梅雨小袖昔八丈(つゆこそで・むかしはちじょう)」は河竹黙阿弥作。全四幕のうち、前半二幕を中心に再構成し、新三(しんざ)を主役にしたショートバージョンが「髪結新三(かみゆいしんざ)」です。


 

江戸の廻り髪結(=店を持たない出張理髪師)の新三は自分の帳場(出張エリア=縄張り)にある白木屋の娘・お熊が手代の忠七と恋仲なのを知り、忠七に駆け落ちをそそのかします。いざお熊を店から連れ出すと、とたんに本性を現しお熊だけを拉致。世間体を気にして穏便に済まそうとする店から金をせしめようとします。


今回は二世尾上松緑追善狂言として、当代尾上松緑が初役で新三に挑戦。これから界隈で売り出そうという、若きチンピラ新三の背伸びを好演しました。抜け目のない家主を演じるのは市川左團次。普段は主役を務める菊五郎がチョイ役の鰹売りで顔を出し、大いに場を沸かせます。


実は白子屋のお熊は実在の人物で、1727年(享保年間)に婿又四郎殺害の罪で処刑されています。本物のお熊は悪女だったようですが、お話の中では恋人だけを思う一途な町娘。また、新三も先行作品の義太夫「恋娘昔八丈」の中で作り出されたフィクションの人物で、実際には存在しません。


事件の真相や実在の人物そっちのけで、新三が主役に躍り出たのはなぜでしょう。


「不断は帳場を回りの髪結、いわば得意のことだから、うぬのような間抜け野郎にも、ヤレ忠七さんとか番頭さんとか上手をつかって出入りをするも、一銭職と昔から下がった稼業の世渡りに、にこにこ笑った大黒の口をつぼめた唐傘も、並んでさして来たからは、相合傘の五分と五分、…(後略)」


「帳場を捨てれば五分と五分」―犯罪者の屁理屈にもしろ、安定収入を得るために身を低くする立場を捨て、金持ちと対等にわたりあう新三の啖呵は、常にへつらって生きねばならぬ庶民にとっても胸のすく思いだったのではないでしょうか。「貧乏人をバカにするな!」は、今の世にも通じますね。


初鰹の売り声、縁側の鉢植え、湯屋から戻る浴衣姿など下町の初夏が薫る本作は、黙阿弥が消えゆく江戸の風情を惜しみつつ、明治6年に書きました。