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歌舞伎彩歌

『お国と五平』虚無僧姿のストーカーが暴く、仇討ち制度の欺瞞く

お国と五平 「お国と五平」は、文豪・谷崎潤一郎が大正時代に発表した作品で、戦後まもなくの1949年、初めて歌舞伎で上演されました。


 

舞台は北関東・那須。街道から離れた荒涼たる薄(すすき)の原に、登場人物はたった3人。夫の仇討ちのために国元を出た未亡人のお国、付き従う若党・五平、そして仇討ちの相手である友之丞です。友之丞はお国と許嫁だった過去があります。仇として追われている身でありながら逆に虚無僧姿でお国の跡を追い、ひそかに隣の部屋に泊まったりするうす気味の悪い男、今でいうストーカーのような存在といえましょう。番組で放送される舞台では故・坂東三津五郎が、ときどきニタリと口元をゆがませながら、一足、また一足、と獲物に接近し、ヒルのように粘っこくまとわりつく様子に背筋が寒くなります。ストーカーが起こす事件が頻発する今、友之丞の描写は自分のすぐ隣の人間にもあてはまるかのごとき現実味を帯びてのしかかり、息もつかせぬ緊迫感です。


けれどもこの作品は、ただの「ストーカー話」にとどまりません。加害者であり卑怯者であり「悪」である友之丞が、自分の気持ちを吐露し始めると、それまで被害者であり忠義者であり「善」であったお国と五平の、もう一つの顔が見えてくるのです。


最初は「家老の息子」というステイタスが気に入り友之丞との婚約を喜んでいたのに、藩内の評判に嫌気がさし、剣の腕が立ち実直な青年・伊織に嫁いだお国。その伊織亡き後、仇討の長旅に疲れた未亡人が、今求めているものは何なのか? 


お国の、世間知らずで無垢な武家の妻らしい可愛らしさの奥に、熟れた女の性をのぞかせる中村扇雀の表情、声の演技が絶品です。誠意ある従者ぶりが爽やかな五平(中村勘太郎=現・勘九郎)の豹変にもご注目ください。


歌舞伎といえば、笛や太鼓の賑やかさ、明るくきらびやかな衣装、隈取を施した顔で見得を切る、とイメージしている人には、拍子抜けするほど地味に思えるかもしれませんが、「これも歌舞伎」。他ジャンルの才能を貪欲に取り入れる歌舞伎スピリットは、アニメ「ワンピース」までも歌舞伎にしてしまう現在に、受け継がれています。