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こだわり派のあなたに観てほしい逸品を、その道のベテランがご提案する連載コラム。
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今月の書き手:増當竜也
バランス感覚に長けた名匠・野村芳太郎監督作品特集開始!
Vol.11(2月27日更新)
野村芳太郎
野村芳太郎監督の作品特集を
衛星劇場にて、4月より放送予定!

戦後昭和の松竹が誇る巨匠のひとりに野村芳太郎監督がいる。『張込み』(58)『砂の器』(74)などの松本清張原作ものを筆頭とするミステリ路線の数々は、世紀を超えてもすたれることなく鑑賞され続けている。しかし、その手の作品の印象がどうしても強い野村監督ではあるが、実際のところ彼は多彩な題材を見事に手掛け続けてきた職人的気質を大いに持ち合わせていた。

たとえば喜劇路線。そこには『糞尿譚』(57)『拝啓天皇陛下様』(63)など社会風刺性の強いものもあれば、コント55号やハナ肇などを主演に据えた明朗喜劇路線、70年代にはナンセンス・ギャグ漫画の映画化『ダメおやじ』(73)なんてものも発表している。

ミステリ路線とは一線を画したシリアスなものとして『東京湾』(62)や歌謡映画の衣を借りて極上の人間ドラマに仕立てた『昭和枯れすすき』(75)、ヤクザ映画『望郷と掟』(66)があるかと思えば、一転して『あの橋の畔で』3部作(62〜63)『しなの川』(73)などのメロドラマもある。美空ひばり主演の『伊豆の踊子』(54)も当時はアイドル映画的スタンスとみなしていいだろうし、越路吹雪主演のミュージカル映画『踊る摩天楼』(56)なんて個人的に未見なだけにぜひ見てみたい。

戦前松竹映画の名匠・野村芳亭を父に持ち、幼いころから撮影所を遊び場として育った野村芳太郎にとって、映画をジャンル分けしたり、規模の大小で映画を区別する感覚など持ち合わせていなかったのかもしれない。要は会社あればこそ映画制作が可能なわけで、だから彼は会社が望むプログラムピクチュアを進んで作りつつ、そのご褒美というわけではないが、ときどきは自分が真にやりたいものを作らせてもらう。

そういったバランスの良さは後進との交流にも行き届いている。野村監督の門下生として山田洋次や森ア東、三村晴彦らの名前はすぐ挙げられるが、それ以外にも彼は60年代初頭に起きた松竹ヌーベルバーグの旗手であった大島渚らを後押ししたり、東映映画の名匠・加藤泰を松竹に招いたりしている。また製作者としても有能で、森谷司郎監督の『八甲田山』(77)や三村監督『天城越え』(83)、山田監督『キネマの天地』(86)などをヒットさせている。

脚本家の橋本忍は、自身が製作した『砂の器』大ヒットの後で当時の松竹社長・城戸史郎に呼ばれ、ほめてもらえるかと思いきや「一体どうしてくれるのか?」と怒られてしまったのだという。それは、自身の後継者として野村を考えていたのに、映画がああも大成功してしまってはもはや彼を経営の側に招くことができないという理由からであった……。

衛星劇場では4月から1年かけて野村芳太郎監督特集を企画している。もし彼ほどの裁量を持つ者が映画会社を統帥する立場にいたとしたら、松竹のその後の運命もどう変わっていただろうか? そんなことを頭の隅に置きながら作品に接してみるのも一興かもしれない。


今月の書き手

増當竜也(ますとうたつや)
映画文筆
娯楽も芸術も、実写もアニメもエンタメの一ジャンルとみなし、古今東西の映画に接し続ける。現在「キネマ旬報」誌に『戯画日誌』、映画サイト「シネマズplus」に『キネマニア共和国』連載中。2018年11月に『映画監督 佐藤純彌 映画よ憤怒の河を渡れ』を上梓。