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Cinema de 温故知新

喜劇ならぬ“怒劇”の名匠・森ア東監督

松竹が生んだ名匠巨匠はあまたいるが、その中には単に大船調の一言でくくり切れないけた外れのパワーを持つ監督も存在する。

 森ア東監督。喜劇の中に社会に対する怒りを盛り込むことを怠らず、また一貫して地を這う視線で人間を見据えるキャメラアイは、他の松竹監督と比べても、いや日本映画界全体を通しても異彩を放っている。

 森ア東監督は1927年11月19日、長崎県島原市の生まれ。その後大牟田市に引っ越すが、この労働者の街ですごした体験が、その後の作風にも大いに反映されているとも聞く。

 44年に大牟田市立商業、48年に第五高等学校(現・熊本大学)を卒業し、京都大学法学部へ進むが、その間の45年敗戦の翌日8月16日に特攻隊員だった次兄が割腹自殺した衝撃的事件も、生涯忸怩たる想いに囚われていくとともに、社会に疑念の目を向ける大きなきっかけにもなっていった(後に森ア監督は、そんな兄の死を反映させた『黒木太郎の愛と冒険』を77年にATG配給で発表している)

 54年に京大を卒業し、58年に松竹京都撮影所に助監督として入所し、大曾根辰保監督らに就くが(映画キャリアの最初が時代劇であったというのは、少し意外な感もある)、やがて同撮影所が閉鎖されるに至り、68年大船撮影所の脚本部へ移籍。その前から山田洋次と意気投合し、彼の作品で助監督を務めたり、『なつかしき風来坊』(66)や『吹けば飛ぶよな男だが』(68)『男はつらいよ』(69)などでの脚本を共同で手掛けている。

 映画監督としてのデビューは69年、渥美清、倍賞美津子、沖山秀子らが出演した『喜劇・女は度胸』。ここでは羽田空港の騒音が鳴り響くドブ川の下町を舞台に、がさつな兄とナイーブな弟による恋人取り違え事件の顛末が、庶民の猥雑なエネルギーを暴力的なまでに映えさせた人情喜劇として屹立。

 このとき森ア監督は「笑いは怒りとともにあるのだ」と、自分の作品を喜劇ならぬ“怒劇”と称したが、これぞキネマ旬報ベスト1を受賞した最新作『ペコロスの母に会いに行く』(13)まで何ら変わることのない森ア作品ならではの本質である。

『喜劇・女は度胸』

森ア作品の資質は、彼が撮った『男はつらいよ フーテンの寅』(70)と、山田監督が撮ったメインの“寅さん”シリーズと見比べても一目瞭然で、同じ下町人情を描いても、こうも違うものかと驚かされる。また山田洋次映画のヴィーナスが倍賞千恵子だとすれば、森ア東映画のヴィーナスがその妹・倍賞美津子というのも面白い事象である。

 そんな森ア監督作品の傑作選が11月と12月に衛星劇場でオンエアされるが、これは森ア監督再評価のきっかけとしても大いに注目したい。

 11月は『喜劇・女は度胸』(69)『喜劇・男は愛嬌』(70)『喜劇・女は男のふるさとヨ』(71)といった彼の初期喜劇を、12月はそれ以外のジャンル、何とテレビ初放送となる青春映画『高校さすらい旅』(出演:森田健作、武原英子/70)や、黒澤明監督の名作のリメイク『野良犬』(出演:渡哲也/73 ※ちなみに黒澤監督はこのリメイクに関して「どうぞお好きに」と、寛大な姿勢を示していたという)、NHK朝のテレビ小説の映画版で松坂慶子の松竹初主演映画でもある『藍より青し』(松坂慶子、三國連太郎/73)を放送。

これを機に、特に彼の“怒劇”を思う存分堪能させてもらいたい(そして、これら以外の作品も近々ぜひに!)