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歌舞伎彩歌

「蜘蛛の化身が繰り出す千筋の糸が宙を舞う」

「土蜘」


「土蜘」は謡曲「土蜘蛛」を原作に、能舞台を模した舞台装置で演じる「松羽目(まつばめ)もの」です。
前半はまず、病気で臥せっている源頼光の前に音もなく現れる僧の、人間とは思えぬ不気味さに注目。花道を、「気」を消して通ってきます。頼光との問答では、不気味でありながらも修行を重ねた高僧としての気高さが必要。難しい役です。妖気を見破るのは太刀持ちの少年・音若で、「ご油断あるな!」の科白が場面を静から動へとダイナミックに転換。本性を現わした僧は、蜘蛛の糸を吐き散らし、忽然と姿を消すのです。


この蜘蛛の糸のことを「千筋の糸」と言います。舞台空間に何本も繰り出される白くて長い千筋の糸が、次から次へと登場人物たちを絡めとるようにゆっくりと落ちていくさまは、まるで打ち上げ花火のようです。また、繰り出された糸が刀や腕にからまって立ち回りの邪魔にならないよう、後見の方々が素早く手指に巻いて片づけていく手際のよさも鮮やか。この「千筋の糸」を考案したのは、幕末から明治にかけて活躍した能楽師・金剛流二十一世宗家の金剛唯一で、五世尾上菊五郎がこの舞踊劇をつくる際には、千筋糸の作成法や秘伝とされる繰り出し方を伝授したとのことです。


土蜘を追い詰め退治する後半に移る前に、狂言「石神」をもとにしたコミカルな場面が間狂言(あいきょうげん)としてさしはさまれます。今回は、石神(の面をかぶった小姓)の役で幼い波野哲之(中村勘九郎の次男、現・中村長三郎)が出演。天性のかわいらしさで観客は満面の笑み。一方、番卒役の三人として坂東巳之助・中村勘九郎・市川猿之助が登場、若き舞踊の名手が勢揃いして、楽しい中にも小気味よく舞台を引き締めます。


源頼光とその家来である渡辺綱、坂田公時らが鬼や土蜘を退治するお話は、「紅葉狩」「蜘蛛の拍子舞」「茨木」など有名なものがいくつもあります。この「土蜘」もその一つですが、歴史的な観点からひもとくと、「土蜘」は蜘蛛の化身ではなく、朝廷に従わぬ土着の民の総称であったともいわれています。「悪い妖怪を退治する」話でありながら、その最期に悲哀がつきまとうのは、こうした側面が感じとれるからかもしれません。