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歌舞伎彩歌

ちょっと幕間「スーパーヒーローは二度死ぬ! 〜「義経千本桜」と平家落人伝説〜」

義経千本桜〜川連法眼館の場 義経千本桜〜吉野山 「義経千本桜」は、「仮名手本忠臣蔵」「菅原伝授手習鑑」と並ぶ長編歌舞伎の名作と謳われています。主人公は源義経。壇ノ浦の戦いで平家を滅ぼし栄耀栄華を手にしますが、兄・頼朝に対する謀反の疑いがかかり、あっという間に追われる身へと転落するさまを、逃避行の行く先々を舞台に描いたものです。


歌舞伎では、義経が静御前を残して大物浦(だいもつのうら)に向かう「鳥居前」、平知盛が安徳天皇を擁し再び義経に挑みかかる「渡海屋(とかいや)大物浦(だいもつのうら)」、源氏の追手から平維盛(これもり)をかくまったすし屋一家の悲劇を描いた「いがみの権太」、義経を追うべく静御前が家来の忠信とともに吉野山を旅する「道行初音旅(みちゆきはつねのたび)(通称:吉野山)」、ずっと静御前につき従っていた忠信が、実は狐だったとわかる「川連法眼館(かわつらほうげんやかた)(通称:四の切(しのきり))」の5編がよく上演されます。それぞれ華やかさやドラマ性に優れ、何度見ても飽きることがありません。


この物語のテーマは「四の切」での義経の言葉に集約されています。鼓の革にされた親狐を慕い人間に化けてまでその鼓を追ってきた子狐を前にし、義経は「動物でさえ肉親を愛するのに、なぜ私は兄から疎まれなければならないのだろう」とわが身を嘆くのでした。戦争はいつの世も、人間から人間らしさを奪い、理不尽な別れや憎しみをもたらします。


ではなぜ、義経は頼朝から疑いをかけられたのでしょうか。義経は壇ノ浦の戦いで平家の知盛、維盛、教経(のりつね)を討ち果たしたと報告しますが、実はこの3人は生きている、偽首を出してわざと逃がしたな、というのが理由の一つでした。知盛・教経は非常に強い武将だったそうです。また維盛は、「光源氏の再来」と言われるほどの美青年だったとか。「あの人が死ぬはずはない」「そんな理不尽なことはない」そういう気持ちが、日本全国に「彼らは実は生きていた」という伝説をたくさん残しています。安徳天皇然り。平家の血を引くというだけで、いとけない幼子が入水しなければならなかったことにも、人々は心を痛めたのでしょう。


そうした「スーパーヒーロー」たちに、「実は生きていた」という形でもう一度無念さを吐露する機会を与えたのが「義経千本桜」とも言えます。そして義経自身も、平氏と同じように悲劇のヒーローとして落ち延びていかなくてはなりません。敗者たちの醸す哀愁に、「平家物語」と同じく盛者必衰の無常を感じずにはいられません。