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歌舞伎彩歌

ちょっと幕間「おおらかな歌舞伎的「ズームアップ」の手法」

毛抜 見得(みえ)」はもっとも歌舞伎らしい所作の一つ。大きく手を広げたり、頭を回したり、眼を寄せて睨んだり、動きを止めてポーズを取ったり…。附け打ちの「バタ、バタバタバタ……」という音も勇ましく、思わず注目して拍手してしまいますよね。


見得の誕生について、一説には江戸時代、観客が舞台そっちのけでおしゃべりしたり食事をしたりしているので、舞台上の役者が自分に向けさせるために始まったとも言われています。映像ならカメラが主人公の顔をクローズアップすれば済みますが、舞台ではそうはいきません。どうやって注目させるのか、苦労したことでしょう。


人物のほうを向かせるのも大変なのであれば、小道具など、もっと見逃してしまいがち。映画やテレビドラマなら、ベッドの下に落ちているイヤリングや道路の脇に捨てられた吸い殻のように小さいものでも、カメラが意識的に映せば「これはとても重要なもの」ということを観客に示すことができます。現代ならば、スポットライトを当てることもできるでしょう。昔はどうしていたのでしょう。


毛抜(けぬき)」では、小道具自体に工夫を凝らしました。このお芝居ではお姫様の髪の毛が逆立ってしまう謎を、粂寺弾正(くめでらだんじょう)という男が解き明かします。弾正が髭を抜こうとして取り出した毛抜きがひとりでに立ち、しかしキセルは立たない。鉄製のものは立つことから、強力な磁石が天井に隠してあるのではないか?と、お姫様の奇病の原因を突き止めていきます。


このとき、毛抜きがどんどん大きいものに! 最初は手におさまるほどだったものが、畳の上で踊る毛抜きは1メートルはあろうかというお化け毛抜き! これは決して「巨大化」ではありません。お客様が見てわかるように大きさを変えた、一種の「ズームアップ」なのです。


リアルな映像に慣れてしまった現代の私たちには、ちょっとわざとらしく、滑稽に感じてしまうこともあるかもしれません。でも江戸時代の人たちが考え出した効果的な視覚的手法だと理解して、おおらかに楽しんでいただければと思います。