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歌舞伎彩歌

『寿猩々』神の品格と酒好きの愛嬌と

「寿猩々」


「猩々」とは、古来中国に伝わる霊獣の名。日本にも平安時代までにその名が伝わり、様々な芸能に取り上げられています。「寿猩々」は、能「猩々」をもとにした舞踊で、孝行な酒売りが猩々に酒をふるまうと、猩々が酒の効用を称えて舞い戯れた末、いくら汲んでも尽きない酒瓶を酒売りに与えて祝福する、というおめでたいストーリー。主役の猩々は、能の装束をベースに赤頭(赤髪)、赤地の唐織という出で立ちです。


今回の演じ手・五代目中村富十郎(2011年没)は舞の名手。能にもよく通じていた富十郎は演じるにあたり、「見ていてこころよい酔い方じゃないと。自分だけ酔っていい気持ちになるのでは、お客様は興ざめする。とはいえ『秘すれば花』。役者は舞台でお客様に感じさせないといけない」と世阿弥の言葉を引用して心構えを語っていました。その言葉通り、富十郎の一挙手一投足は、万の言葉より雄弁に「舞の心」を表す力があります。


私は平成21年(2009年)5月、歌舞伎座さよなら公演で富十郎の「寿猩々」を生で観ていますが、滑らかかつ俊敏な所作、重力を感じさせない足さばきは、まさに「霊獣」の神性を表して人間の舞であることを忘れてしまいそうでした。白塗りに赤い毛の奥で妖しくあるいは鋭く光る瞳。同時に酒に酔って目を細め相好を崩すおおらかさ。静の中に意表を突いて動く首の振り方や、くるくると変わる表情、間合いの緩急が、しびれるほどに小気味よい!
さらに幕を引いてから幕外で花道を駆ける最後の引っ込みは、大鼓・小鼓・立鼓・笛とのたたみかけるような競演で、動と静のコントラストが効いたパフォーマンスは、歌舞伎舞踊というより、もはやモダンジャズとヒップホップダンスに近く、ライブ会場のような高揚感で劇場も拍手が鳴りやみませんでした。


その五世中村富十郎の七回忌追善狂言として、今月(2017年1月)の歌舞伎座では富十郎の子息にあたる中村鷹之資が「越後獅子」を踊っています。まだ高校生ですが、亡父譲りの清廉な所作を観るにつけ、いつか彼の「寿猩々」を観たい、と思わせるのが、歌舞伎見物の醍醐味なのではないかと思います。