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歌舞伎彩歌

『与話情浮名横櫛〜源氏店の場』「死んだはずだよお富さん」の歌はここから

「与話情浮名横櫛〜源氏店の場」


舞台いっぱいに施された黒板塀、その奥に松の枝ぶりがのぞく瀟洒な家。そこに登場する女性は湯屋の帰りで、長い黒髪は洗って束ねたまま……。
初めてこの場面を見た時、「『粋な黒塀/見越しの松に/仇な姿の洗い髪』、……歌の通りだ!」と感動したことを覚えています。作詞・山崎正、作曲・渡久地政信、春日八郎の歌で大ヒットした歌謡曲「お富さん」(1954)。『死んだ筈だよお富さん/生きていたとは、お釈迦さまでも知らぬ仏のお富さん』と、軽快なリズムで無邪気に歌えるのがこの曲のよさですが、もとになったお話を知ってしまうと、とても明るく歌えたものではありません!


木更津の親分・赤間源左衛門の妾だったお富は、商家の若旦那・与三郎と運命的に出会い愛し合いますが、密会現場を押さえられ、与三郎はメッタ刺しに。お富も海に身を投げ、互いに消息を知らぬまま時を経た数年後。与三郎は頬かむりをして顔の傷を隠し、仲間の蝙蝠安(こうもりやす)とともに強請りたかりで日銭を稼いでいました。そんなたかりの「得意先」で、偶然お富に会えたとき、「死んだはず」の恋人は、ほかの男の囲い者として生きていたのです。


そのことを知った与三郎が発する「もし、御新造さんえ、おかみさんえ……お富さんえ……イヤさお富、久しぶりだ〜な〜」「おぬしアおれを見忘れたかい」のセリフは、愛する女の面影だけを胸に、泥水を飲むようにして生きてきた男のやるせなさに溢れています。


今回放送されるのは今年の新春浅草歌舞伎の舞台で与三郎は尾上松也、お富は中村米吉。
松也は白塗りの色男が似合うこと! 「しがねえ恋の情が仇、〜」から始まる名セリフは、立て板に水の七五調。七五調はともすれば調子に引きずられ、音を並べるだけになりがちなところを、木更津で心ならずも人の囲い女に惚れてしまったこと、九死に一生を得てからの辛い日々などを、目に浮かぶように語っていきます。
米吉も「仇な」雰囲気を醸し、幼な顔ながらねっとりした色気でむせ返りそう。与三郎が惚れるのもむべなるかな。蝙蝠安の澤村國矢も軽妙に小悪党を演じ、場の雰囲気をなごませます。


やさぐれた大人の色恋ではなく若い男女の純愛物語として、新鮮な「切られ与三郎」をご堪能ください。