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痛快活劇の中に「震災後」と生きる意味を問う

「里見八犬伝」

原作は滝沢馬琴の「南総里見八犬伝」。江戸後期に書かれた大長編痛快伝奇読本である。里見家の主で父の義実がなした約束によって、神犬・八房(やつふさ)との結婚を強いられた伏姫(ふせひめ)、やがて姫の胎内から飛び出た8つの玉、その玉を持つことになった八犬士と、彼らを探すゝ大(ちゅだい)法師、玉に浮かび上がる「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」の文字の意味、最後には里見の家を滅ぼそうとする玉梓(たまずさ)との対決……。
こうした大枠や登場するキャラクターを生かしながら、新たにストーリーを書き下ろしたのが劇作家の鈴木哲也だ。スピード感あふれる展開と迫力の殺陣で、アクション・エンターテインメントに仕上げている。演出は深作健太。俳優陣には山ア賢人、青木玄徳、玉城裕規をはじめ、テレビや2.5次元ミュージカルなどで活躍する俳優たちが勢揃い。比嘉愛未が、伏姫と玉梓の二役に挑戦している。


丁寧に描かれているのは「なぜ彼らが犬士として選ばれたのか」。育ての親を殺した者が「孝」、人を思いやることのできない者が「仁」など、玉に浮かぶ文字にふさわしいとはいえない。そこに等身大の若者像が出現、観客一人ひとりが自分の人生を重ねられるリアリティが生まれた。
なかでも犬山道節の叫びには父に対する憧れとコンプレックスが渦巻き、ともすればそれは日本を代表する映画監督、故・深作欣二に対する息子・深作健太の思いにも受け取れる。しかし父親側の心情もしっかりと描かれたこの舞台を観れば、すでに深作健太はすべてを乗り越えているとわかる。加えて底流にあるペシミスティックなまなざしと、突き抜けるほどのエンタメ性はいずれも父親譲り。「玉」はしっかりと受け継がれている。


原作と大きく違うのは、「南総大崩れ」という大きな震災から10年という設定である。
「なぜ死ななければならなかったのか。そしてなぜ、生きなければならないのか」
「あの震災さえなければ……」
親を亡くし家を失くし故郷を失くし、それでも「生き残った以上、生きる意味があるのでは?」と思う者、「それでは死んだ者たちは捨て石か?」と反駁する者。何が正しいのかなどわからない世の中で、どう進めばいいのか。八犬士とともに、生きる意味を考え続ける舞台でもある。21世紀の日本の、今だからこそ生まれ、心に響く作品。12年の初演、14年の再演を経て磨き上げられ、これからも上演され続けるに違いない。