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蜷川幸雄が最後に手掛けたシェイクスピア劇

「尺には尺を」

「尺には尺を」は1人の死刑囚をめぐり、罪に対する罰の厳しさを問う物語。面白おかしい場面が続くから喜劇には違いないが、法の運用や権力者のあり方について深く考えさせる。いったん権力を握ったとき、人間はどう豹変するのか?


清廉潔白だがその分他人にも厳しく、一切お目こぼしなしの政治家として高名なアンジェロが、清らかな修道女イザベラに心奪われた途端、一転して「お前の処女を差し出せば死刑囚の兄を助けてやる」と迫る。「訴えてやる!」と叫ぶイザベラに対し、「お前の言うことなんか誰が信じるか。私の地位をもってすれば、汚名はお前に着せられる」と権力でねじふせようとするのだ。演じるのは藤木直人。涼しい目をした藤木は「根っからのワル」にしてはお顔が清らか過ぎる! だから余計に「こんな善人にも悪の心が潜んでいて、支配者になった途端に豹変するのか…」という衝撃が大きい。一人の人間の中から発せられる振れ幅の大きい思惑や弱さが、たしかなセリフによって等身大の苦悩を浮かび上がらせた。 イザベラも、兄の不道徳な行いを許せない一方で、命だけは助けたいという思いはある。自分の矛盾に戸惑いながらはっきりと物を言い、自分の信じるところを貫き通す少女の純粋さを、多部未華子が好演。膨大なセリフを豊かな表情と高らかな声で客席まで届け、輝きを放った。


舞台の要は辻萬長(※「辻」は一点しんにょう)だろう。アンジェロに全権を預けて旅行に行ったふりをし、実は神父に化けて彼の采配を観察する公爵の役だ。最後に正体を現し、見事な采配でアンジェロの失政をリカバーするところは、町奉行・大岡越前が遠山の金さんとして市中を闊歩、最後に「大岡裁き」で喝采を浴びるのに通じるものがある。「尺には尺を(Measure for Measure)」とは「自分の罪も他人の罪も、同じ基準で」つまり裁いたり罰したりするには平等な尺度が必要という意味。しかし服もきっかり寸法通りだと、ちょっと動けば破れてしまう。このお話には「適当な“ゆるみ”は人間社会にも必要だ」というウィットが利いている。


さいたま芸術劇場の芸術監督になった蜷川幸雄が、シェイクスピア全37作品の演出・上演を目指した彩の国シェイクスピアシリーズは、1998年にスタートした。2016年5月25日に初日を迎えた本作はその32作目にあたるが、直前の5月12日、蜷川は還らぬ人となった。彼がキャスティングし、アイデアを出した最後の演出作品。その重さを誰もが噛みしめるカーテンコールとなっている。